タバコを吸う人も吸わない人も、「タバコ臭はちょっと気になる…」という方は多いようです。
普段からタバコに親しんでいる喫煙者の方であっても、「他人が吸ったタバコの煙はあまり吸いたくない」とおっしゃる方が大勢おられます。
当然と言えば当然の感覚なのかもしれませんが、実はこの「ちょっとやだな…」と感じる気持ちは、私たちの身体から出ているサインでもあるのです。
タバコの煙はどこまで届くの?
こんな経験をしたことはないでしょうか?
どこからともなくタバコの臭いがしてきたので周囲を確認してみると…
かなり離れた場所でタバコを吸っている人がいます。距離的には結構離れていても、意外とニオイは感じるものですよね。
さて、ここでちょっと質問です。
喫煙者から吐き出されたタバコの煙は、一体どこまで届くのでしょうか?
2005年に発表された米国の著名な生物理学者James L. Repaceの研究によれば、最低でも喫煙者から半径7メートルの範囲まで、タバコの煙(およびタバコに含まれる物質)が届くことが示唆されています。
この半径7メートルというのは、風が吹いていない状況で計測したものだそうです。喫煙者が複数名いる場合や風が吹いている環境の場合、煙が届く距離は何倍にも伸びていくと言われています。
「え? タバコの煙って7メートルも届いてるの?」
と驚かれた方も多いかもしれませんね。
煙の白いモヤモヤを視覚的に確認できるのは、喫煙者のすぐ周りや喫煙所周辺などに限られることでしょう。
ところが、私たちの目で実際に確認できる煙の割合はわずか10%。残りの90%は見えない煙と言われています。そしてこの目に見えない煙が、かなりの距離まで届いているということになるのです。
「タバコの煙の問題って臭いだけじゃないの?」
と思われたあなたは、タバコについてまだ何もご存知ないようです。
タバコの煙が喫煙者・非喫煙者に及ぼす影響
タバコの煙には、数々の有害物質が含まれています。
三大有害物質として知られているものには「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」があります。
ニコチンは依存症を引き起こしたり、血管を収縮させて血流を悪くしたりします。タールはいわゆる「ヤニ」で、ここに発がん性物質や発がんを誘発する物質が数十種類以上含まれています。
一酸化炭素は酸素不足を招き、血流に悪影響を及ぼします。
この他にも、ニッケルやカドミウムなどをはじめとする200~300種もの有害物質が含まれており、そのうち70種類以上が発がん性物質ということが明らかになっています。
タバコの煙への慢性的な接触では、肺がん、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、などのリスクが高まります。
また急性症状としては、眼・鼻・喉の違和感に加えて呼吸器系の症状(喘息など)が引き起こされることが分かっています。
喫煙者も非喫煙者も、タバコの煙に触れたことによって生じる健康被害へのリスクは同じであり、むしろ、非喫煙者が吸い込む受動喫煙の方が、健康被害へのリスクが高いことも報告されています。
タバコの煙というものは、喫煙者だけでなく非喫煙者にとっても、深刻な影響を及ぼすものなのです!
タバコの煙には種類がある!?
喫煙者がタバコから吸う煙を「主流煙」。喫煙者から吐き出される煙を「呼出煙」。火のついたタバコから立ち上る煙を「副流煙」と呼びます。
喫煙者自身がタバコの煙を吸うことを一次喫煙と呼び、タバコを吸わない人(非喫煙者)が喫煙者から出た煙(呼出煙+副流煙)を吸うことを二次喫煙と呼びます。この段階からが「受動喫煙」です。
受動喫煙の定義は「室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること(健康増進法第25条より)」とされています。
呼出煙と副流煙が混ざった受動喫煙においては、喫煙者本人が吸い込む主流煙よりも、さらに多くの有害物質が含まれていることが分かっています。
そしてさらに、喫煙後に残された目に見えない煙は、至るところに漂ったり染み付いたりしており、この残り香にも有害物質が含まれていることが分かっています。
タバコの残り香を吸い込んでしまう段階をサードハンドスモーク(三次喫煙、または残留受動喫煙)と呼びます。
サードハンドスモーク(三次喫煙)が起こるのはいつ?
サードハンドスモークの原因となる煙は、喫煙者の髪の毛や服、持ち物だけでなく、喫煙者が生活している(あるいは出入りした)部屋の壁紙や家具、カーテン、洗濯物、自動車の内装など、いたるところに付着することが明らかになっています。
つまり、家族の誰かひとりでもタバコを吸っていれば、残りの家族は常にサードハンドスモークの危険にさらされているといっても過言ではないのです。
喫煙者から吐かれたタバコの煙を直接吸い込まなくても、その残り香にあたるものから知らず知らずのうちに受動喫煙をしてしまう「サードハンドスモーク」は特に厄介であり、国レベルでも対策が始まっています。
結論から言ってしまうと、サードハンドスモークはいつでもどこでも起こってしまうのです。
●コンビニやスーパー、飲食店に入った瞬間にふわっとタバコの臭いがしたとき。
●近くを通り過ぎた人がタバコ臭かったとき。
●電車やバスに乗った後、自分の服が妙にタバコ臭いと感じたとき。
ほんの少しでも「タバコの臭いが気になる」と感じたときは、すでにサードハンドスモークの被害にあっています。
タバコの臭いはどこまでも追いかけてきます。そしてその臭いには、数多くの有害物質が含まれているのです。
百害あって一利なし、とはまさにこのことですね。
自分の健康だけでなく周りの人の健康にも悪影響を及ぼしてしまうタバコ。
喫煙者の皆さんも、非喫煙者の皆さんも、今一度、タバコとの向き合い方を考え直す必要があるのではないでしょうか。
次回はもっと怖いタバコによる健康被害について、ご紹介していきます。
<参考>
論文が掲載されたジャーナルのリンク
研究者本人が公開している論文pdf
日本喫煙学会の見解と提言(2006年)
煙がなくても有害物質にさらされる!?こんなに怖い受動喫煙 公立学校共済組合
予想より大きい受動喫煙の害 亀田グループ医療ポータルサイト
受動喫煙のリスク 日本医師会
e-ヘルスネット三次喫煙 厚生労働省